沈没船でパーティーしよう

ひとりで生きて死にたい

ASMRの裏側/私に触るな/父のこと

仕事に夢中になりすぎてすっかり無趣味状態だ。休日にやることがないので何かしたいな~とずっとぼんやり考えていて、ふと「ASMRシチュボ動画でも作って雑に性的消費されるか」という破滅願望的思いつきが降ってきたので調べてみたら、バイノーラル音声収録に対応したマイクは安くて七万円とかだった。七万て。すごい、桁が違う。よくプロの動画に出てくるコナンの犯人役に酷似したマネキン型のマイクは百万円だった。見間違いかもしれない。私も見間違いだと思いたい。七万~百万円の世界。すっかりやる気はなくなったが、世界の裏側を見た気分になった。私が好きなあの配信者も七万円以上のマイクを持っている。金銭という尺度が入ることによりつかの間の夢を見に行く動画が一気に現実へとにじり寄ってきた。

 

私に触らないでくれ、とずっと思っている。私はASDで触覚過敏がある。他人から身体に触られるのが本当に無理、我慢ならないぐらい大嫌い。みんなそうだろと思われるかもしれないがこれは度合いの問題で、極めて親密な関係の相手からちょっと呼び止めるために肩を叩かれるだけでも大パニックを起こしてぶちギレてしまう。加えて人間嫌いから端を発した強迫的な穢れへの恐怖もあって、身体だけでなく私物を触られるのも大嫌いで、ひどい時は共用のドアノブに触れることすら躊躇って手を消毒しまくる。ボールペンの共有すらしたくない。私に触らないでくれ。どれだけ親しくても大好きでも予告なしに身体に触らないでくれ。私に触るな。私に触るな!don't touch me!叫んで回りたい。耐え難い。私だって人の肌のあたたかさがうらやましくなる時もあるけど、それでもいざ他人から触られるとゾッとしてしまい無理なのだ。相手への好意とか、性欲とか性的指向とかとは全く違うベクトルの問題。どうしようもない、自分の肌で自分の肌をあたためるしかない。

 

もしかしたら今の私は目の前の仕事に逃げることで自分の人生を真剣に考えないようにしているのかもしれない。分かっているけど、改めてこの社会を見渡せば絶望しか湧いてこない。そういうところは少し、父親に似てきた気がする。父は何というか、家庭を持ち子を育てるにはあまりにも精神的に未成熟な人だったな、と大人になってからは思う。大人になった今は、父の孤独や痛みと少し距離が近付いた気がする。断言したくないのは彼を軽蔑しているからだ。けれど同情もしている。私もあんな風になっていたかもしれないからこそ、今はヒリヒリとした危機感とともに父のことを思い出す。もう彼が死ぬまで会いたくないけれど。